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EXHIBITION
展覧会記録
2020年9月23日-10月5日
新宿高島屋10階・美術画廊
向山裕展「回遊者たち」
Shinjuku Takashimaya Art Gallery
MUKOYAMA Yutaka "The Migrators"
清らかな急流、水面に目を凝らすと、巨大な魚影がくろぐろとひしめいています。視線を水中に転ずると、底砂を掘ったくぼみには珠のような卵が散りばめられ、精子の白煙にまかれながら、光り、揺れています。
実に多くの生物種が定期的な移動、すなわち「回遊」や「渡り」を行います。越冬の為や、餌を求めてなど目的は種によって様々です。たとえばサケの仲間は、海で成長したのち、 産卵のために母川へ帰還する「遡河回遊」を行うことが知られています。如何にしてふるさとの川を過たずに探り当てるかは依然、生物学上の大きな謎のひとつです。
幼少を過ごした風景を懐かしみながら、自らのルーツに、始原に向けて文字通り遡行していくときの気持ちはどんなでしょうか?魚体の傷つきように反比例して瞳の透明度は増していくようです。やがて自らの出生地に至り、エネルギッシュな生殖を行い、そのまま力尽きて死んでいきます。
自分の一生の因果を、最期の瞬間、霧が晴れるように知り、重い環がガチャリと閉じる音を聴く。また同形の環が前後に果てしなく連鎖しているという実感を、魚の頭でどのように感じるものでしょうか。「来たところへ還る」流れに浮かぶ白く濁った目に、全き死を受け入れる表情が看て取れます。
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